新型コロナウイルス感染禍に関わる社会心理学研究(ウェブ調査)情報まとめ

私を含む心理学者による研究グループで実施した標記の調査について取材や寄稿依頼を多くいただいております.

ご依頼の際は,まず,

  • いわゆる「自業自得」に関する項目を含む国際比較調査はこちら
  • 日本在住の一般市民を対象とするパネル調査(2020.1-継続中)はこちら

にお目通しいただいた上で,要点をメールあるいはツイッターDMでお知らせ下さい.

ご協力のほどよろしくお願いします.

夢ナビ講義「「みんな」の意識や行動を,データで解き明かす」が公開されました

株式会社フロムページが企画する大学受験生用コンテンツ「夢ナビ」に標記の記事が公開されました.

https://yumenavi.info/lecture.aspx?GNKCD=g010144

社会心理学とはどういう研究領域なのかを800字程度で紹介しており,また,受験生へのメッセージ,学問を始めたきっかけなどについても掲載されています.今後,「夢ナビライブ2020」(2020.6.6@インテックス大阪)…COVID-19感染禍で中止となりました での講義ライブや「夢ナビトーク:3分で学問を伝えよう」といったコンテンツも順次公開される予定です.

新聞記事へのコメント掲載

新型コロナウイルス肺炎流行に関する情報拡散について,2020年2月1日付の朝日新聞東京本社版等の社会面(同1月31日付配信の朝日新聞デジタル記事)にコメントが掲載されました.以下,私のコメント部分を引用します.

「ネット上の人間行動を研究する三浦麻子・大阪大教授(社会心理学)の話」

新型肺炎の致死性などが不確かで状況が変化するなか、人は、恐怖や不安にかられて身近なリスクをより知りたがる。そうしたリスクについて、自分の予想と合致するような情報が流れてくると、デマでも気づかずに受け止めてしまう傾向がある。WHOや厚生労働省といった責任ある機関が出す感染症への対応や対策など、一次情報をウォッチし続けることが重要だ。

また今回、自分の正しさを主張するために、このニュースに乗じてヘイト的な言説を拡散している人もいるようだ。社会的に立場のある人や公職にある人は自らの意見よりもまず、客観的な情報の発信に努める必要がある。良かれと思った行為でも、結果的にデマの拡散につながることもある。いたずらに情報を発信しない、というのも一つのあり方だ。


本コメントに関連する下記の研究についても,先般朝日新聞でご紹介いただきました.

Komori, M., Miura, A., Matsumura, N., Hiraishi, K., & Maeda, K. (2019). Spread of risk information through microblogs: Twitter users with more mutual connections relay news that is more dreadful. Japanese Psychological Research, 63(1).

論文早期公開

2019年11月に掲載が決定していた以下の論文が早期公開されました.それに合わせて,研究内容を日本語でまとめた記事を作成したのでご覧下さい.

Komori, M., Miura, A., Matsumura, N., Hiraishi, K., & Maeda, K. (2019). Spread of risk information through microblogs: Twitter users with more mutual connections relay news that is more dreadful. Japanese Psychological Research, 63(1).

日本語によるまとめ記事
SNSによるリスク情報の拡散メカニズムの解明―どのようなリスク情報が拡散されやすく,どのような人が拡散させやすいか―

2019年12月29日付の朝日新聞デジタル(および30日紙面)記事で研究が紹介されました.


以下のように大阪大学からプレスリリースをいたしました.

SNSによるリスク情報の拡散メカニズムを解明
―どのようなリスク情報が拡散されやすく、どのような人が拡散させやすいか―

【研究成果のポイント】

  • SNS上でどのようなリスク情報がどのような人によって拡散されやすいかを解明
  • 従来の理論モデルでは説明できない、SNSにおける情報拡散メカニズムの存在を提示
  • 虚偽情報の拡散を抑制するには信頼性をきちんと確認する「ハブ」の存在が重要であることを示唆

大阪大学大学院人間科学研究科の三浦麻子教授と大阪電気通信大学情報通信工学部の小森政嗣教授らの研究グループは、SNSでリスク情報が拡散されるメカニズムについて、実際に広く拡散したツイートの伝達経路を追跡し、拡散に影響を及ぼすリスクのタイプと拡散に加担しやすい利用者の特性を明らかにしました。

SNS上に利用者同士のつながりをあまり持たない利用者は、リスクのタイプにかかわらず多くのリスク情報を拡散させる傾向があったのに対して、多くのつながりを持つ利用者は、全体としてはリスク情報をあまり拡散させない一方で、「恐ろしさ」が強く感じられる情報については拡散させやすい傾向があることが示されました。

本研究成果は、日本心理学会が刊行している国際学術誌「Japanese Psychological Research」に2019年12月27日(金)(日本時間)に公開されました。

プレスリリースフルバージョンはこちら

新聞記事へのコメント掲載

2019年12月14日(電子版)および15日朝刊(紙面)の日本経済新聞「科学&新技術」に心理学実験の再現性に関する以下の記事が掲載されました.私のコメント箇所を太字にしています.なお,この引用は日本経済新聞「記事を引用する場合の条件は何ですか」を参照の上,その条件を満たすものと判断しています.


「⼼理学実験、再現できず信頼揺らぐ 学界に⾒直す動き」

「つまみ⾷いを我慢できる⼦は将来成功する」「⽬を描いた看板を⽴てると犯罪が減る」――。有名な⼼理学の実験を検証してみると、再現できない事態が相次いでいる。望む結果が出るまで実験を繰り返したり、結果が出た後に仮説を作り替えたりする操作が容認されていた背景があるようだ。信頼を失う恐れがあり、改めようとする動きが出ている。

ノーベル賞のパロディー版として⼈気がある「イグ・ノーベル賞」は9⽉、ドイツの⼼理学者、フリッツ・ストラック博⼠に2019年の⼼理学賞を贈った。授賞理由は「⼈が⼝にペンをくわえると笑顔になり気分も幸せになることを発⾒し、その後そうはならないことを発⾒した」。

ストラック⽒が1988年に発表したこの研究内容は、著名な経済学者が「本⼈が知らない間に判断や考えを操作できる例」として引⽤するなど⾼く評価された。ところが別の研究グループが⼤規模な実験で検証したところ同じ結果は出ず、ストラック⽒も17年に「効果は思っていた以上に⼩さかった」と認めた。

九州⼤学の⼭⽥祐樹准教授は「有名な⼼理学の実験で最近、再現できない事例の報告が相次いでいる」と話す。

最も典型的な例とされるのは⽶スタンフォード⼤学で60〜70年代にまとめられた「マシュマロ実験」だ。研究者は幼い⼦どもの前にマシュマロを置いてしばらく席を離れる。その間にマシュマロのつまみ⾷いを我慢できた⼦は「その後、⾼い学⼒などを⾝につけ社会的に成功する」という内容だ。

この研究は「⼦どもを我慢強く育てれば成功する」というメッセージを教育界に与え影響⼒は⼤きかった。しかし18年に他のチームが再現した実験では、つまみ⾷いを我慢する影響は限定的だった。今では「教育や家庭の環境の⽅がより重要で、我慢強ければ成功するとは限らない」という考え⽅が⼀般的だ。

また「⽬で監視する図柄を⾒た⼈は誠実に振る舞う」という実験結果が06年に公表され、不法侵⼊や窃盗などを防ぎたい場所に⼈の⽬を模した看板やポスターが設置され
た。この結果も11年の実験で再現に失敗した。

スタンフォード⼤で71年に実施された「監獄実験」では、組織や役割が⼈格に⼤きな影響を及ぼすという結果を導き出した。実験の協⼒者を看守役と囚⼈役に分け、⼤学内に作った模擬的な監獄にとじ込めて変化を追跡した。実験を計画した⼼理学者が、看守役に囚⼈役を虐待するよう促していたなど不適切な介⼊があり、やはり再現できない代表的な事例にあげられる。

⽶科学誌「サイエンス」は15年、⼼理学研究への信頼が揺らいでいる事態を重く⾒て、主要な学術誌に掲載された⼼理学と社会科学の100本の論⽂が再現できるかどうかを検証した。結果は衝撃的で、同じ結果が得られたのはわずか4割弱にとどまった。⽇本の代表的な⼼理学会誌「⼼理学評論」も16年、再現できない実験に関する問題を特集号として取り上げた。

⼼理学で再現できない研究がなぜ⽬⽴つのか。⼤阪⼤学の三浦⿇⼦教授は「捏造(ねつぞう)ではないものの、結果を都合よく利⽤する研究が⼀部で許容されてきた」と解説する。100年以上の歴史はあるが、確⽴した⼿法がなかった。実験を何回繰り返すかを事前に決めず望む結果が出た時点で打ち切ったり、結果の⼀部だけを論⽂に載せたりする慣習があった。実験結果に合うよう仮説を作り替えることもあったようだ。

再現できなくても「元の実験が真実ではなかった」とすぐに断定できない点がやっかいだ。三浦教授は「妥当な⽅法で実験していても再現性が低くなる可能性はある。不適切な研究と区別しなければいけない」と指摘する。

⼭⽥准教授は「⼼理学は科学でないと受け⽌められるところまで来ている」と警鐘を鳴らし、研究のやり⽅の刷新を訴える。

著名な研究だとそのまま受け⼊れるのではなく再現実験などで常に検証することや、研究計画を学会誌に事前に登録して不正を防ぐ取り組みなどが必要だと提案している。欧⽶や⽇本の⼀部の学会誌が査読付きの事前登録制度を導⼊するなど、改⾰の動きは出ているという。

ただ、時間と労⼒を費やして再現実験をしても⾼い評価は得にくい。事前登録制度は査読をする研究者の負担が⼤きいなど、改⾰を進めるうえでの課題も多い。「これまでのやり⽅で⼤きな問題はないと考える研究者が結構いる」(⼭⽥准教授)。意識の刷新が最も必要なようだ。

(科学技術部 草塩拓郎)


九州大学の山田祐樹さんと私のコメントが掲載されています.執筆した記者の方からは,2名ともに比較的長時間の取材を受け,かなり突っ込んだ意見交換をしました.どの事例を挙げるかも難しいような,大きく,入り組んでいる問題を,論文より圧倒的に制約が大きい新聞記事という紙幅の中で,うまくまとめて下さっているし,研究者の意識を変えることが必要,という「煽り」で結んでいただけたのもよかったと思います.

個人的には,コペルニクス的な転回ではなく蠕動的に,しかし確実に,心理学を研究する者たちの意識は変わりつつあることを感じています.ただ,意識を行動に結びつけるのは案外難しいので,研究プロセスの様々なフェーズにおけるより積極的な大小の「改革」が必要ではないかと考えています.

なお,誤解されると困りますが,私は「だから心理学なんてもう(いや,そもそも?)ダメ」とはまったく思っていません.思っていないからこそ,こうした問題に正面から取り組むことが大切だと考えています.確かに,研究過程にはいくつも大罪を犯しかねない場面が存在します.それはまるで人生そのものです.その意味で,これは心理学だけの問題ではなく,科学が人間によって創り出されたものである以上,あらゆる科学に携わる者が常に意識すべきことであり,そして,人間の原罪に関わる問題です.

以下に,私がこれまでに関わってきた,心理学の再現性問題に関する論文や記事へのリンクを掲載します.どの資料も,どなたでも無料でご覧いただけます.この問題についてより詳しく知っていただくことができると思います.

「心理学研究の素朴な引用によって差別的言動を正当化する行為に 対する意見声明」の公表

今般,日本の大学,特に医学部の入学試験において,学力試験の成績の「調整」を試み,その際に,特定の属性(例えば,女性)に不利な扱いをしていた事例に関する,各大学からの「説明」「お詫び」が数多く公表されています。

こうした事例をふまえ,心理学研究の素朴な引用によって差別的言動を正当化する行為全般に,心理学者有志として断固抗議する声明を公表しました。

詳しくはこちらをご覧下さい。


メディアでの紹介記事:

朝日新聞「順大のコミュ力問題、心理学会も懸念「安易な論文引用」」

毎日新聞「順天堂大「コミュ力高い」は非科学的 心理学者らが抗議声明」

有料記事ですので私のコメント部分を抜粋します:「不適切な引用も,平均値で示される一般的傾向を個別事例に当てはめることも,ありがちだがやってはいけないこと.自戒も込めて言いたい.特に入試のような場面ではなおさらだ」

 

インターネットラジオ番組「TODA RADIO」に出演しました

中京大学心理学部の高橋康介さんと池田功毅さんが運営しているネットラジオ番組「TODA RADIO」に出演しました.以下のウェブサイトから参考資料と共にどなたでも番組をお聴きいただけます.

TODA RADIO #003 ミウラジオ

同ラジオ番組は再現可能性問題を軸に心理学に関する様々な今日的なトピックを扱っており,今回が第3回です.偶然,中京大学心理学研究科の学術講演会にお呼びいただきお話しする機会があったので,その「ついで」に出演させていただきました.ラジオ番組に出るのは初めてでしたが(酔っ払っていたので)緊張することもなく楽しく話せました.他の回もとても面白いので,是非お聴き下さい.

インタビュー記事掲載(GIGAZINE)

WebニュースサイトGIGAZINEにインタビュー記事が掲載されました.心理学研究を紹介するサイエンスコミュニケーションに際してマスメディアによる報道に果たしていただきたい役割についてお話しするのが主眼でしたが,前半は「どうして研究者となったのか」ということから最近の研究に着手した経緯に至るまで,私のライフヒストリーの語りになっています.少し長いですが,それぞれ面白く読んでいただければ幸いです.

「科学研究とメディアの関係はどうあるべきか?」(2017年7月31日公開)

「心理学ベーシック」シリーズ刊行開始

北大路書房より「心理学ベーシック」シリーズの刊行が始まります.心のはたらきを科学的に見つめるまなざしを養い,「自らの手で研究すること」に力点をおいた全5巻のシリーズです.

◎シリーズ監修 三浦 麻子◎
第1巻 なるほど! 心理学研究法 三浦麻子 著
第2巻 なるほど! 心理学実験法 佐藤暢哉・小川洋和 編著 2017年秋刊行予定!
第3巻 なるほど! 心理学調査法 大竹恵子 編著 2017年秋刊行予定!
第4巻 なるほど! 心理学観察法 佐藤 寛 編著 2017年秋刊行予定!
第5巻 なるほど! 心理学面接法 佐藤 寛 編著 2018年春刊行予定!

第1巻『なるほど!心理学研究法』は,5月10日発売予定です.鮮度の高い事例や普遍的なハウツーを盛り込みながら,どの研究法にも共通する基盤的知識を解説しています.研究倫理も手厚く扱っています.実証に基づく科学としての心理学が「なるほど!」と理解できて,もっと研究したくなる入門書です.

こちらにサポートサイトを開設しました.読者の方々が,より詳しく幅広く学ぶための様々なサポート情報を提供します.

目次

「心理学ベーシック」シリーズ刊行にあたって
はしがき

序章 心理学とは何か

―第1部 心理学を「研究する」ということ―
第1章 心理学のなりたち:心理学史
第2章 研究の準備:心理学研究の基礎知識
第3章 研究の準備:先行研究の探し方

―第2部 心を「測定する」ということ―
第4章 研究の基礎:研究法概説
第5章 研究の基礎:人間を対象とする測定における諸問題
第6章 データの中身を知る:記述統計
第7章 データから対象を見通す:推測統計

―第3部 研究を「公表する」ということ―
第8章 研究倫理:研究者として「なすべきこと」
第9章 研究倫理:研究者として「やってはいけないこと」
第10章 研究倫理:モラル違反を抑止するシステム
第11章 研究成果の公表:心理学論文の書き方
[付録] 心理科学実験実習 レポート作成 チェックリスト
終章 よりよい心理学研究のために

引用文献/索 引

『実験社会心理学研究』編集長を拝命しました.

本日より日本グループ・ダイナミックス学会の機関誌『実験社会心理学研究』編集長を拝命しました.任期は2年間です.
副編集長の石井敬子先生と共に,国内研究の醸成・活性化を目指して,高いレベルの質とアクティブさを追究するべく取り組みます.

『実験社会心理学研究』J-Stageサイト