このサイトは,2020年3月に『心理学評論』第62巻3号として刊行された特集「心理学研究の新しいかたち」に関する情報を掲載しています.なお本特集に掲載されたすべての論文は,冊子刊行後,2021年2月28日にJ-STAGEで公開されました.
巻頭言(抄)
これまで『心理学評論』では,最近の心理学において大きな問題となってきた諸問題について積極的に取り上げ,国内の学界における議論をリードしてきた。つまり,59巻1号『心理学の再現可能性:我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』と61巻1号『統計革命:Make Statistics Great Again』である。本特集号はその流れを汲む,いわば3部作の完結編にあたる。
まず『再現可能性』特集号では,心理学研究が抱える再現可能性の諸問題について議論し,その解決方法として世界の研究者たちが精力的に進めている諸方策について紹介した。再現可能性の低さを助長しているのは,pハッキングなど統計的推論の(無)意識的操作をはじめとする「問題のある研究上の諸行為(QRPs)」である。そして,これに対する1つの答となりうるのがベイズ統計学であり,その可能性と限界について論じ,かつその界隈で起こりつつある変化にも言及したのが『統計革命』特集号であった。このように,基本的な現状の展望と可能な処方箋の案を示し,「心理学の明日はどっちだ」と問いかけてきたことになる。
では次は何か。実践あるのみである。心理学研究の品質を継続的に改善するためには,それが成功しようが失敗しようが,PDCAサイクル(plan-do-check-act cycle)を回す必要がある。そこで本特集号では,心理学の明日に向けた「新しいかたち」の典型例として,国際的には実践が進みつつある一方で日本の学術誌ではまだ前例のない,研究計画の「事前登録と事前審査」方式を私たちの手で実践し,その顛末をまとめ,評価するという企画を立案した。
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企画概要
※以下は2018.11の企画発動時に公開した文章で,実際に刊行する内容とは異なる部分がありますが,敢えて当初の企画を参照可能としているものです.
これまで、『心理学評論』では、最近の心理学において大きな問題となってきた諸問題について積極的に取り上げ、国内の学界における議論をリードしてきた。
つまり、
である。
『再現可能性』において、私たちは心理学研究が抱える再現可能性の諸問題について議論をし、その解決方法として世界の研究者たちが精力的に進めている諸方策について紹介した。再現可能性の低さを助長しているのは「問題のある研究上の諸行為(QRPs)」である。その一つがpハッキングなどの統計的推論の(無)意識的操作である。これに対する一つの答えとなりうるのがベイズ統計学である。その可能性と限界について論じ、かつその界隈で起こりつつある変化にも言及したのが『革命』であった。基本的な現状展望と可能な処方箋案は示した。そして私たちは「心理学の明日はどっちだ」と問うた。
次は何か。実践あるのみである。それが成功しようが失敗しようが、サイクルを回さない限り評価はできない。そこで今回、私たちは、この流れの特集の第3弾として、これまで提案されてきた心理学研究の新たな「かたち」―事前審査(Pre-review)つき事前登録方式(Pre-Registration)―を自ら実践し、その顛末を一つの特集号としてまとめることを企画した。
今回の企画は、(1)心理学研究の新しいかたちに関する総説論文(1本)、(2)追試研究と新規テーマ研究の成果を報告する原著論文(後述の領域×各1本)、(3)前述原著論文の実施経緯を記録・報告する資料論文(1本)、(4)国際的な再現性問題に関する取り組みを報告する招待論文(2本)、(5)全体に対するコメント論文(3~4本)、の5カテゴリで構成する(なお、論文種別は内容に応じて便宜的につけたものである)。
総説論文では、心理学の再現性問題とそれへの対応について、特に『再現可能性』特集号刊行以降の動きに焦点を当てて解説した上で、事前審査(Pre-review)つき事前登録方式(Pre-Registration)を紹介し、それを実践する本特集号の意義について述べる。非生命体を対象とする研究や、生命体を対象とするのでも細胞や分子などミクロレベルでそれを扱う研究で主に行われてきた本方式を、心理学研究にそのままの形で持ち込むことの功罪に関する議論なども範疇に入る。
追試研究に関する原著論文では、これまでに数多くなされてきた心理学研究の中でも影響力が大きいトピックについて追試を行う。知覚・認知、学習・生理、社会・文化、発達・臨床の各領域から1つずつトピックを抽出する。執筆者(研究実施者)は、この特集号のための担当編集委員が選定するか、広く募集する。新規テーマに関する原著論文では、トピックの選定は執筆者(研究実施者)に任せる。いずれの場合も、査読には事前審査(Pre-review)つき事前登録方式(Pre-Registration)を採用する。すなわち、研究着手前に詳細な研究計画の提出(事前登録)を求め、その内容を審査した上で、掲載を前提とできる研究に着手させる。そしてその成果が投稿されれば、掲載に値するかどうかを再度審査して、掲載する。通常の原著論文としての成果であると同時に、今回企画の実践成果でもあることをふまえ、考察においては、事前審査(Pre-review)つき事前登録方式の意義や問題点についても議論していただく。
資料論文は、事前審査(Pre-review)つき事前登録方式の実践経過を記録・報告し、他誌も含めて今後の心理学研究の活用・導入のための参考として供する。招待論文は、世界的に著名なMany Labs/Many Primatesプロジェクトを牽引している研究者たちから既に執筆の受諾を得ている。最後に、全体を通して、複数の研究者からのコメント論文を付随させることで、読者の議論を喚起する。
以上のプロジェクトを、以下のスケジュールで進行する。
[プレレジ論文]第1段階投稿締切:2019年2月末
[プレレジ論文]査読結果通知予定:2019年3月中旬
[プレレジ論文]第1段階最終締切:2019年3月末 ※第1段階論文の公開情報はこちらからご覧いただけます.
[プレレジ論文]第2段階投稿締切:2019年7月末
[プレレジ論文]査読結果通知予定:2019年8月中旬
[プレレジ論文]第2段階最終締切:2019年8月末
[一般・コメント論文]投稿締め切り:2019年10月末
[一般・コメント論文]査読結果通知予定:2019年11月中旬
[一般・コメント論文]最終締切:2019年11月末
- 事前審査の完了したプロポーザル (第1段階論文) はPsyArXivにて公開され,これをもって事前登録されたものとみなす。事前審査の完了したプロポーザルの一覧はここから参照できる。
- 論文の種類を問わず,採択が最終決定した論文は逐次PsyArXivにて公開される予定である。
心理学に起こりつつある、いや、すでに欧米では起こっている、このような心理学研究の大きな変革の流れをわれわれ研究者自身が信じ、それを追従することができるのか。それを研究者自身で実践して検証するという、一種の「当事者研究」の試みである。そして、こうした試みは、単に心理学者を当事者とする問題の解決に留まらない。これも世界的な潮流であるオープンデータ・オープンサイエンス推進の中で、未だ既存データベースの利活用促進への対応に留まっている日本の社会科学の現状を打破し、今ここで始まる将来に向けたデータ共有へとステップアップさせることを意図するプロジェクトである。
担当編集委員:三浦麻子(大阪大学)・友永雅己(京都大学)
ゲストエディター:原田悦子(筑波大学)・山田祐樹(九州大学)・竹澤正哲(北海道大学)